h国を護るという事について | 靖国神社参拝 | 楠木正成親子の事
1月5日について調べていたら2つの事柄が目につきました。
1つは中曽根元首相が現職首相として初めて、靖国神社に年頭参拝したというのです。
今でも靖国神社の問題はくすぶっているようですが、結局A級戦犯を祀っているからなのでしょう。
ただし彼等を裁いた東京裁判というのは甚だ一方的で、勝者が敗者を裁くという、あってはならない裁判でしたし、戦犯とされた中には、東郷茂徳のように一貫して戦争に反対だった人物もいる訳で、戦犯という決め付けそのものの根拠も疑わしいと思われます。
それに靖国神社には戦犯とされた人々だけではなく、もっと大多数の戦争の犠牲者が祀られている訳で、その人達の供養のことがまるで問題視されないのもおかしな事だと思います。
そして1月5日の件でもう1つ目についたのは、楠木正行の命日とあった事で、この人は楠木正成の息子であり、父親の志を受け継いで天皇のもとで戦い、その甲斐もなく負けて自刃したのでした。
ところで父親だった正成の意志ですが、それは次のようなものだったと伝わっています。
正成もまた、武運つたなく死ぬ訳ですが、その直前に弟の正季に思い残す事はないかと尋ねますと、正季は「七度も人間に生まれて来て敵を撃ち破りたい」と答え、正成も同感だと答えて共に刺し違えて死んだというのです。
この話は『太平記』に記されて後世に伝わり、多くの人々に影響を与えました。
ことに江戸時代の末には、ここには無かった「国に報いる」という語が加えられて「七生報国」というスローガンになりました。
こう書くと眉をひそめる人も少なからず居ると思うのですが、何故そうなのかが私には疑問です。
昔も今も、好むと好まないとに関わらず、国の運命と国民の運命とは一体なのです。
嘘だと思うなら、他国の支配に屈した国々のことを調べてみるべきでしょう。
つまりは中国に支配されたチベットやウィグルのことです。
或いは、冷戦時代の東欧の国々でも同じで、ソ連に支配された悲惨な歴史があったのです。
江戸の末期と言えば、中国のアヘン戦争があった頃です。さしもの大国だった中国は、白人達のエゴの犠牲となり、ガタガタになりました。
日本ではこれを知り、中国の二の舞にだけはなってはならないと考えたのは当然の事でしょう。
白人達は、日本にほんの少しの隙でもあれば、中国のように餌食にしてしまったかもしれないのです。
そうした国々を敵として警戒するのは、当時としては当然の考え方だったのです。
むろん開国派という人達も中にはいて、その一人が坂本龍馬でした。
その考えは、とにかく日本が毅然として強い国であることが大事であり、日本に隙がなければ西欧諸国も何も出来ないという事だったのだと思います。
ただし日本人の全体がそれだけの力を持つには時間もかかった訳であり、そこに到るまでは、西欧を襲いかかって来そうな敵として警戒するのは当然の考え方だったと思うのです。
その当時の考え方を一言でいえば、今でいう「国防」です。
国防という言葉は、昨今ではその背後にあるイデオロギーが問題視されるようです。
しかし幕末の当時は、どんな思想を持つかというイデオロギーが第一だったとは思えません。
むろん「攘夷派」と「開国派」の対立はあった訳ですが、その対立は危機をいかに回避するかと考えた先の事であって、危機の認識そのものには違いはなかったろうと、私には思われます。
当時の根本的な問題は、現実をどう見るかという事だけだったろうと思うのです。
つまりは、どんなイデオロギーを持つかは関係なくて、それより先に考えなければならないのが「国防」だった筈です。
ここで思うのが、司馬遼太郎さんの描いた人物です。
私の読書量からは大したことは言えませんが、司馬さんはリアリストの眼を持った人物を尊んでいたらしい事は、ほぼ分かる気がします。龍馬などはその代表でしょう。
大事なのは現実を如何に見るかという時代認識であり、また先見の明でもあったろうと思うのです。
先見の明などと言っても、使い古された、どこにでも有る能力だ思う向きもあろうかと思います。
しかし私にはそうとも思えません。
誰もが、あの龍馬のような眼を持ち得るかというと、はなはだ疑問に思えます。いつの時代でも、いわゆる時代精神(ヘーゲルの語)とか、真の未来を見通せるのは、ごく少数の人なのかも知れないと思うのです。
これらの事は、いつでも同じに存在することと思えます。
中でも、国防とはどんな時代でも、何よりも現実的な問題に過ぎなくて、それをイデオロギーと共に見るのは、しばしば過った見方に陥ってしまうというように思われてなりません。
《付記》
投稿してからのちに、あらためて書いた事があります。吉田松陰の絶筆に関する、ごく短い文章ではあるのですが、一応別の記事としました。
以下で読めます。
読む→【吉田松陰の絶筆と『太平記』との関わり合いについて】